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名古屋地方裁判所 昭和43年(借チ)7号 決定 1968年11月28日

申立人

津田侑希子

代理人

石川則

相手方

伊藤麗

代理人

内藤三郎

相手方

西脇正晴

ほか二名

主文

本件申立を棄却する。

理由

一申立人は申立人が別紙目録記載の土地転借権の譲受を許可するとの裁判を求めた。

二本件記録によれば次のことが認められる。

(1)  本件土地は相手方伊藤麗の所有であるが、昭和三二年一一月以前から相手方西脇正晴、同西脇こえの、同西脇一晴(以下相手方西脇三名という)の被相続人西脇一之に木造建物所有の目的で賃貸し、同人は右地上に別紙目録記載の建物を建築所有していた。その后西脇一之はこれを昭和三二年一一月六日村上しんに譲渡し、村上しんは昭和三八年七月二七日死亡したので相続により村上富美子が右建物の所有権を取得した。

(2)  西脇一之は右建物を村上しんに譲渡した後である昭和三五年二月一日改めて公正証書をもつて本件土地を相手方伊藤麗から木造建物所有の目的で期間二〇年の約で賃借したこととし、賃料を一ケ月3.3m2当り二七〇円と定めた。西脇一之と村上しんとの間は従前どおり転貸借関係とし、賃料は西脇が受取り西脇はこれを相手方伊藤麗に支払つていた。西脇一之は昭和四一年六月一〇日死亡し相手方西脇三名が相続し転貸人なつた。これより先、村上しん死亡により村上富美子が相続し転借人となつたことは前記により明である。

(3)  賃料、転借料とも同額で公正証書作成当時は右のとおり一ケ月3.3m2当り二七〇円であつたが、昭和三八年頃3.3m2当り一ケ月三七〇円に値上げされた。

(4)  申立人は昭和四二年一二月二五日名古屋地方裁判所昭和四二年(ケ)第二〇号不動産競売事件の競落許可決定により代金三〇〇万円で本件建物を競落し、昭和四三年二月二二日代金を支払つて所有権を取得した。その后、申立人は右建物に改造を加え現在サウナ風呂として使用している。

以上の事実が認められる。

しながら、<証拠>によれば申立人の夫津田正太郎は暴力団柳川組大幹部で不動産侵奪罪の疑で逮捕されたことが新聞紙に大きく報道されたことが認められる。このような事情の下においては一般人は生計を共にするその妻である申立人との間に仮令同人が資力があつても士地賃貸借関係のような相互信頼を主軸とする契約関係に入ることをきらうのは当然のことといえる。そして、そのような場合に本件申立をいれて相手方ら特に相手方伊藤麗に強制的に申立人との契約関係に入らしめることの不当なることはいうまでもない。借地法第九条の二第一項(第九条の三第一項)に所謂「賃貸人ニ不利トナル虞」とはかような場合を含むものと解するのが相当である。そうすると、相手方伊藤の同西脇三名との契約が合意解除、或は解除されたという主張に判断を加えるまでもなく本件申立は賃貸人に不利となる虞がある場合に該当するからこれを失当として棄却すべきものである。

以上の理由により主文のとおり決定する。(奥村義雄)

<目録省略>

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